「道の駅田野、移転するらしいよ」
その話を最初に聞いたとき、うれしさより先に、ちょっとさびしさが来ました。
新しくなるのはいいこと。頭ではわかってるんです。でも今のあの場所、東九州道が通ってからすっかり静かになってしまって。物販ももうやめちゃったし。一度この町を出て、また戻ってきた身としては、まあ、いろいろ思うところもあるわけです。
で、どうせ大きく変わるなら。その移り変わりを、誰かがちゃんと見て、書き留めておいてもいいんじゃないか。そう思って始めた、個人の小さなサイトです。名前は伏せてます。田舎なんで、すぐバレるから。
やりながら気づいたんですけど、これ、道の駅だけの話じゃないな、と。せっかくなら田野町そのものを、もうちょっと外に自慢したい。べつに人に来てほしいわけじゃないんです。ただ、いいところなので。知られてないのが、もったいないだけで。
その筆頭が、干し大根でした。
「日本一」って言われても、ねえ
正直に言うと、最初はピンときませんでした。
大根なんて、どこでも穫れる。何をもって日本一なのか。新しい道の駅のコンセプトにも、でかでかと「日本一の干し大根と農業のまち田野」と書いてある。宮崎なら牛でしょう、マンゴーでしょう、うなぎでしょう。華のあるやつがいくらでもいるのに、よりによって、たくあんの原料が町の看板を張っている。
なんでだ。気になって調べ始めたら、これがまずかった。数日、干し大根のことばっかり考えてます。
大根の、壁
まず、大根やぐらの写真を何枚も見ました。
竹で組んだ大きな櫓に、収穫したての大根を何段もびっしり吊るしていく。遠目には、白い大根でできた壁です。これが冬の田野に、いくつも立ち並ぶ。鰐塚山から吹き下ろす寒い風を、地元では「わにつかおろし」と呼ぶそうで。その冷たい風と、宮崎の冬のよく晴れた日差し。この2つがそろう土地だから、甘くて歯ごたえのある干し大根になる。風景の話かと思ってたら、気象の話でした。
で、調べていて手が止まったのが、ここです。
この「大根を干して、その畑をまた次に活かす」という営みが、『宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム』という名前で、田野・清武地域まるごと日本農業遺産に認定されている。
一回読み飛ばして、戻ってきました。認定されてるのは、干し大根っていう"品物"じゃない。土地の使い方そのもの——仕組みが、国に認められてる。特産品じゃなくて、特産の仕組み。ここでようやく腑に落ちました。「日本一」、ただの惹句じゃなかったんだ、と。看板を張れるわけです。
1937年から、一社だけ
干し大根そのものは冬の産物ですけど、それを原料にした加工品なら、一年じゅう手に入ります。その真ん中にいるのが、田野町に本社のある道本食品という会社でした。
創業1937年。で、日本で唯一の「干したくあん」専業メーカー。
唯一。この言葉に、弱いんですよね。何かのついでじゃなく、それ一本で、一社だけ、80年以上。やぐらで干した大根を漬け込んだ天日干したくあん「日向漬」が、その看板です。
正直に白状しておくと、私、これを全部食べ比べた自慢があるわけじゃないです。だから「これが一番うまい」とは言いません。それでも最初の一本にこれを薦めるのは、日本で一社しか張ってない看板を、まず知っておいてほしいから。田野の味の入口として、これ以上まっすぐなものはないので。



